BtoBマーケティングを外注・業務委託するときの切り分け方 — 判断は社内に残し、実行を外に出す

公開 2026.10.05約11分で読めます

BtoBマーケティングを外注・業務委託するとき、何を外に出し何を社内に残すか。戦略の判断、実行、営業への引き渡しの三つの層での切り分け方と、リード数だけを渡す外注が失敗する理由、代理店・業務委託・顧問の選び方を、広告代理店・広告媒体・営業組織の側で働いた経験から書きます。

BtoB マーケティングを外注したい、という話の多くは「人が足りない」から始まります。広告を回す人がいない、記事や資料を作る人がいない、展示会の準備をする人がいない。だから外に頼む。判断としては正しいのですが、外注してしばらく経つと「リードは増えたのに、営業が使えないと言っている」という状態に陥る会社は少なくありません。

私は新卒で入った広告代理店でプロデューサーとして発注を受ける側にいて、その後 Twitter Japan で約 200 社の広告主を担当し、営業組織のマネジメント側にも立ちました。BtoB のリードの問題を、広告代理店側、広告媒体側、SaaS の営業側、営業組織のマネジメント側という四つの立場から見てきたことになります。この記事では、BtoB マーケティングのどこを外に出し、どこを社内に残すべきかを、仕事の「層」に分けて書きます。

外注は「仕事の層」で切り分ける

BtoB マーケティングの仕事は、大きく三つの層に分けられます。外に出せる度合いは、層ごとにまったく違います。

BtoB マーケティングの三つの層と、外に出せる度合い
層中身外に出せるか
判断の層誰に売るか、どんなリードを良いリードとするか、予算をどのチャネルにどれだけ置くか一緒に考えてもらうことはできる。決めるのは社内
実行の層広告運用、記事や資料の制作、イベントの企画と運営、レポートの作成外に出しやすい。ただし判断の層で決めたことを渡すのが前提
引き渡しの層リードを営業に渡す条件、渡した後の結果の返し方、マーケティングと営業の評価のつなぎ方設計は外部と一緒にできる。運用の持ち主は社内に置く

外注がうまくいかない会社は、多くの場合、この三つをまとめて外に出しています。本人たちは実行の層だけを頼んだつもりでいても、判断の層と引き渡しの層が空いていれば、外注先がそこを暗黙のうちに埋めることになります。外注先に悪意はありません。ただ、埋め方は自然と「契約で約束した数字を達成しやすい方向」に寄ります。

判断の層:誰に売るか、何を良いリードとするか、予算をどこに置くか

判断の層で決めることは三つです。どの顧客を狙うか。どんなリードなら営業が追う価値があるか。予算を広告、イベント、インサイドセールス(IS)、コンテンツのどこにどれだけ置くか。

この三つは、社内にしかない情報で決まります。どんな会社が実際に買ってくれたか、どんな会社が途中で離れたか、どの商談がなぜ失注したか、どの顧客が利益を残しているか。外注先がどれだけ優秀でも、この情報を持っていない限り、判断は一般論になります。

外部は「考える材料」を持ち込める

とはいえ、判断の層で外部が役に立たないわけではありません。外部は、社内からは出てこない案を持ち込めます。

代理店にいたころ、大手小売と飲料メーカーが共同で行う SNS キャンペーンを提案したことがあります。この企画は、複数社が関わる数千万円規模の施策として実施されました。一社の中で考えていると、他社と組むという選択肢はなかなか出てきません。外部の価値は、こういう「自社の外の組み合わせ」や、他社で見てきた打ち手を持ち込めるところにあります。

だから判断の層で外部を使うなら、外部が案を出し、社内が選ぶという分担にします。選ぶ責任まで外に渡すと、次に書くことが起きます。

決めずに外に出すと、外注先が代わりに決める

たとえば「ターゲットは中堅企業の情報システム部門」とだけ伝えて、広告とコンテンツを外注したとします。中堅企業とは従業員何名からか、情報システム部門の誰に届けばよいのか、どんな課題を持っている会社なら商談になるのか。ここが決まっていなければ、外注先は反応が取りやすい層に配信を寄せます。リードの数は出ますが、営業から見ると狙っていない会社ばかり、ということになりがちです。狙う顧客の決め方はBtoBのICP(理想顧客像)の決め方に書きました。

予算の配分も同じです。広告代理店は、広告の中での配分なら最適化できます。ただ、広告とイベントと IS のどこに予算を置くべきかを中立に判断する立場にはありません。自分たちの担当外のチャネルについては、情報も責任も持っていないからです。チャネルをまたいだ配分は、社内か、チャネルに利害を持たない立場の人が決める必要があります。

実行の層:広告運用、コンテンツ制作、イベント

実行の層は、外に出しやすい層です。専門性が高く、量の波もあるので、社内で抱えるより外に出したほうが効率的なことが多い。ただ、それぞれに社内に残すべきものがあります。

広告運用

代理店では、大手流通系小売や大手デベロッパー、テレビ局などを担当し、SNS を中心に戦略、アカウント運用、広告運用、効果測定、レポート、営業までを手がけていました。あるポイントプログラムの 3 周年キャンペーンでは、8 媒体・グロス 3,000 万円の運用を担当し、インプレッションは 2.31 億(目標比 102%)、クリックは 91.7 万回(目標比 126%)でした。

運用の細かい調整は、専門の人に任せたほうが速く正確です。一方で、社内に残すべきなのは、顧客を理解していることと、成果の中身を判定することです。代理店にゴールの数字だけを渡すと失敗する理由と、発注側が見るべき数字については広告運用を代理店に丸投げしないための最低知識にまとめました。

コンテンツ制作

記事、ホワイトペーパー、営業資料の制作も外に出しやすい仕事です。ただ、書く作業は外に出せても、書く材料は社内にしかありません。顧客が商談で最初に聞いてくること、失注したときに言われた理由、導入後に評価されている点。これを渡さずに外注すると、どの会社にも当てはまる一般論の記事ができあがります。

Flywheel Digital Japan では、一枚ものの資料(ワンペーパー)も作っていました。一枚ものに何を載せるかは、デザインの良し悪しより、営業が商談で何を聞かれるかで決まります。制作を外に出すなら、営業へのヒアリングに外注先を同席させるか、社内でヒアリングした内容をそのまま渡すのが近道です。

イベント

イベントは、会場や運営、制作物の準備を外に出せる一方で、外に出しにくい部分が多い施策です。

Flywheel Digital Japan では、イベントへの出展や登壇も自分で行っていました。私の経験の中で、リード獲得の費用対効果が最も高かったのは、パートナー企業と共同で開催したイベントです。この施策で外に出しにくいと私が考えるのは、どのパートナーと組むか、誰が登壇して何を話すか、来場者を誰が追うか、の三つです。運営は外に出せても、この三つは社内に置いたほうがよい。進め方はBtoBリード獲得施策の全体像に書きました。

引き渡しの層:ここを外に出すと、つなぎ目が切れる

三つの層の中で、最も見落とされやすいのが引き渡しの層です。リードを営業に渡す条件、渡した後に商談になったかどうかを返す仕組み、マーケティングと営業の評価のつなぎ方。広告代理店も制作会社も、ここは契約の範囲外であることがほとんどです。

約 50 名規模の営業組織で(社名はここでは控えます)、私はリード創出の責任者として、広告を中心にしたリード獲得や部署横断の施策を進めていました。そこで「リードは取れているのに商談にならない」原因として多かったのは、IS 経由のリードでした。IS がアポを取ること自体を目的にしてしまう、ニーズの有無を確かめずに営業に渡してしまう。

対処として効いたのは、営業に渡す条件を営業と IS で一緒に決め、その条件を IS の評価に入れることでした。条件が言葉になり、評価がその条件とつながると、IS の動き方が変わります。

ここで大事なのは、この設計を外注先が代わりに持つことはできない、という点です。社内の営業の評価を変えられるのは社内だけです。外部は条件の案を作り、運用の場に立ち会うことはできますが、持ち主は社内に置く必要があります。設計の詳しい進め方は営業とマーケティングの連携がうまくいかない理由に書きました。

よくある失敗:リード数だけを決めて、すべてを外に出す

ここまでの話をまとめると、典型的な失敗は次の順番で起きます。

リード数だけで外注すると起きること
  1. 外注先とは、月のリード数の目標だけを合意する
  2. 外注先は、獲得しやすいリードで数を作る
  3. マーケティング担当は達成を報告し、営業は「使えないリードばかり」と言う
  4. 営業がリードを追わなくなり、商談化率がさらに下がる
  5. 誰の責任か判定できず、外注先を替える。替えた先でも同じことが起きる

根本にあるのは、マーケティングがリード数で評価され、営業が商談数や受注で評価されている、という構造です。リードが商談になるまでの間を、誰も持っていない。この状態で外注先を替えても、問題は解決しません。空いているのは外注先の能力ではなく、判断の層と引き渡しの層だからです。

代理店側にいた立場から言うと、渡された数字を達成しようとするのは、外注先として誠実な振る舞いです。数字の中身が問われない契約であれば、誠実な外注先ほど数字を作りにいきます。問題は外注先の姿勢ではなく、渡した数字の設計にあります。

代理店・業務委託・顧問は「何が足りないか」で選ぶ

外に頼む相手は、大きく三つに分かれます。どれが良いかではなく、社内に何が足りないかで選びます。

外部の頼み先の違い
頼み先主に提供するもの向いている状態気をつけること
広告代理店・制作会社専門の実行力と体制やることは決まっていて、手が足りない判断の層と引き渡しの層は、契約に含まれないことが多い。決めてから渡す
フリーランス・業務委託チームの一員としての実行と、任された範囲の判断担当者がいない、または一人では回らない任せる範囲と、範囲外のことを誰が決めるかを先に書いておく
顧問判断の相手。論点の整理と選択肢の提示実行する人はいるが、判断の相手がいない自分では手を動かさない。社内に実行する人がいることが前提

顧問と業務委託の違いは、別の記事で詳しく書きました。一言で言えば、顧問は判断を提供して意思決定は会社側に残す契約、業務委託は実務を引き受けて自ら手を動かす契約です(顧問契約と業務委託の違い)。

迷ったら、足りないものを一文で書き出してみてください。「広告代理店はついているが、予算をどこに置くかを決める人がいない」なら、代理店を増やしても解決しません。足りないのは判断なので、顧問か、判断まで任せられる業務委託です。「方針は決まっているが、広告を回す人も記事を書く人もいない」なら、顧問を置いても何も動きません。足りないのは実行なので、代理店か業務委託です。両方が足りないなら、判断の層と引き渡しの層を持てる業務委託を一人置き、その人が代理店や制作会社を使う形が現実的です。

外注する前に用意しておく三つのもの

どの相手に頼むにしても、契約の前に社内で用意しておくものが三つあります。完璧である必要はありません。外部と一緒に詰める前提で、たたき台があれば十分です。

1. 商談につながるリードの定義

「どんなリードなら、営業が追う価値があるか」を言葉にします。業種、規模、役職、抱えている課題。加えて、追う価値がないリードも書いておくと外注先が判断しやすくなります。たとえば、競合の情報収集、既存顧客の別部署からの問い合わせ、予算化の予定がない情報収集段階の相談、などです。

2. 営業に渡す条件

リードがどの状態になったら営業に渡すのか。課題、時期、予算、決裁への距離のうち、最低どれが確認できていればよいか。誰がそれを確認するのか。最初は緩めに決めて、商談化率を見ながら締めていけば構いません。

3. 外部に返すデータ

外注先に渡したリードが、商談になったか、受注したか、失注したならなぜか。これをチャネル別、施策別に、定期的に外注先へ返します。このデータがなければ、外注先は契約上の数字に最適化するしかありません。逆に、商談化の結果を受け取れる外注先は、配信先や訴求を自分で修正し始めます。SNS を外注する場合も同じで、フォロワー数ではなく事業の成果に近い段階の数字で報告を受ける設計にします(SNS運用を事業の成果につなげるKPI設計)。

外部に頼むなら、どう頼むか

最後に、外部に頼むときの進め方を書きます。

  1. 足りないものを一文で書く。判断なのか、実行なのか、引き渡しの設計なのか。これで頼み先が決まります。
  2. 最初の合意は、リード数ではなく定義と条件にする。目標の数字は、リードの定義と営業に渡す条件が決まった後に置きます。
  3. 外部の評価を、商談に近い数字とつなげる。契約上はリード数で測るとしても、商談化数を毎月共有し、会話の中心をそちらに置きます。
  4. 社内の持ち主を一人決める。外部に何を頼んでも、判断の層と引き渡しの層の最終的な持ち主は社内の誰か一人です。ここが空席だと、外部がどれだけ優秀でも成果は社内に残りません。

私自身は、マーケティング支援として、判断の層から引き渡しの層までを外部の立場で手伝っています。外から入るときに最初にやるのは、広告やコンテンツの話ではなく、リードの定義と営業に渡す条件を、営業の方と同じ席で決めることです。ここが決まっていれば、実行の層は代理店でも、社内の担当者でも、私でも回せます。

よくある質問

広告代理店と業務委託の担当者を、両方使ってもよいですか?

使えます。むしろよくある組み合わせです。業務委託の担当者が判断の層と引き渡しの層を持ち、代理店には実行の層を任せる。代理店への指示とレポートの受け取りを業務委託の担当者に集めると、社内の窓口が一つになり、営業から返ってくる商談化の結果も代理店に渡しやすくなります。

社内にマーケティングの担当者が一人もいません。代理店にすべて任せるしかないですか?

実行は任せられますが、判断の層と引き渡しの層まで代理店に任せるのは避けたほうがよいと考えています。経営者か営業の責任者が持つか、判断の層まで任せられる業務委託や顧問を置き、その人が代理店を使う形にします。担当者がいない状態で全部を外に出すと、この記事で書いた失敗の順番をそのままたどりやすくなります。

リード 1 件ごとの成果報酬で外注するのはどうですか?

リードの数を増やすインセンティブが最も強く働く契約なので、リードの定義が曖昧なまま結ぶと、質の問題が起きやすくなります。成果報酬にするなら、報酬の対象を「営業に渡す条件を満たしたリード」に限るか、商談化した件数を対象に含めるなど、成果の定義を営業の言葉で決めてからにします。

まとめ

  • BtoB マーケティングの外注は、判断の層・実行の層・引き渡しの層に分けて考える
  • 外に出しやすいのは実行の層。判断の層は外部が案を出し、社内が選ぶ
  • 引き渡しの層は、営業の評価とつながっているので、持ち主は社内に置く
  • リード数だけを決めて全部を外に出すと、マーケティングと営業の間を誰も持たない状態になる
  • 頼み先は、足りないのが判断か実行かで選ぶ
  • 外注の前に、リードの定義・渡す条件・返すデータの三つのたたき台を用意する

外注で成果が出るかどうかは、外注先の選び方よりも、社内に何を残したかで決まる、というのが、代理店、媒体、営業組織の側からこの問題を見てきた私の考えです。

REN SUZUKI

ACCOUNT EXECUTIVE, UBER FOR BUSINESS — UBER JAPAN — TOKYO。事業開発・マーケティング・営業の執行を、業務委託で担っています。プロフィール →