広告運用を代理店に任せるのは、正しい判断です。運用の専門性は高く、社内で抱えるより外に出したほうが効率的なことが多い。ただ、「任せる」と「丸投げする」は違います。丸投げした広告は、ほぼ確実に成果が出ません。
私は新卒で入った広告代理店でプロデューサーとして、大手流通系小売やデベロッパーの SNS 広告をグロス数千万円規模で運用していました。その後は広告媒体側で約200社の広告主と向き合い、いまは発注側の視点も持っています。この記事では、代理店側と発注側の両方から見えた「丸投げが失敗する理由」と、発注側が最低限知っておくべきことを書きます。
丸投げの失敗パターン:ゴール設定しかしない
発注側が代理店に丸投げして失敗するパターンで最も多いのは、ゴール設定しかしないケースです。「月に問い合わせ 50 件」「CPA 1 万円以内」。ゴールを渡し、あとは代理店に任せる。
これが失敗するのは、どのようなプロセスで成功に導くのか、というストーリーが定義されていないからです。ゴールだけがあると、代理店はゴールの数字を作ることに最適化します。問い合わせ 50 件を達成するために、質の低い問い合わせを量産する配信に寄る。CPA を守るために、獲得しやすいが受注につながらない層にだけ配信する。発注側は月末のレポートで「達成」の文字を見て、翌月に営業から「問い合わせの質が悪い」と言われる。
- 代理店はゴールの数字に最適化する。数字の中身は問われない
- 途中の中間指標が見落とされるので、ずれていても月末まで気づかない
- 成果が出なかったとき、発注側と代理店のどちらの責任かが判定できない
対処:成功までのストーリーを、先に定義する
ゴールの前に決めるべきなのは、どんな人が、どんな経路で、どんな状態になったら、ゴールにたどり着くのかというストーリーです。
たとえば「問い合わせ 50 件」なら、「どの業界の、どの役職の人が」「どんな課題で検索したり SNS を見ていて」「どんな広告文を見て」「どんなページにたどり着いて」「何に納得して問い合わせるのか」。ここまで言葉にすると、途中の各段階に中間指標が置けます。表示回数、クリック率、ページ到達後の離脱率、問い合わせ率。ストーリーがあれば、月の途中で「クリックは取れているがページで離脱している」と分かり、手を打てます。
代理店は、この ストーリーを一緒に作ることができます。ただし、発注側が「作ってほしい」と依頼しなければ、ゴールだけで走り始めます。最初の打ち合わせで、ゴールではなくストーリーの合意を求める。 これが丸投げを避ける第一歩です。
発注側が最低限見るべき三つの数字
運用の細部は代理店に任せてよいのですが、発注側が毎週見るべき数字は三つに絞れます。
| 指標 | 意味 | 見方 |
|---|---|---|
| CPA(獲得単価) | 1 件の成果を得るのにかかった広告費 | 目標との差だけでなく、成果の中身(質)と合わせて見る。CPA が良くても商談化しないなら、成果の定義がずれている |
| CVR(コンバージョン率) | クリックした人のうち、成果に至った割合 | ページと訴求の整合性を表す。低ければ、広告文とページの内容がずれているか、ターゲットがずれている |
| CTR(クリック率) | 広告を見た人のうち、クリックした割合 | 広告文・クリエイティブと配信面の健全性を表す。低ければ訴求が刺さっていない、高いのに CVR が低ければ広告が期待を煽りすぎている |
三つの関係で見るのがポイントです。CTR が高く CVR が低いなら、広告は良いがページが応えていない。CTR が低く CVR が高いなら、刺さる人には刺さっているので配信の幅を見直す余地がある。CPA だけを見ていると、この診断ができません。
EC のように売上が直接測れる商材なら、CPA の代わりに ROAS(広告費用対効果)を置きます。ただしリード獲得型の BtoB では、成果の中身を営業の商談化率で補って見る必要があります。数字の定義は商材で変わりますが、「三つの関係で診断する」という見方は共通です。
代理店との会話の仕方
発注側が代理店を使いこなすために、私が有効だと思う会話のルールを挙げます。
- 「なぜその配信にしたのか」を毎回聞く。 説明できない配信は、惰性で回っている可能性があります。
- 数字の異常は、月末ではなく週の途中で共有してもらう。 週次の簡易レポートを依頼し、CTR・CVR・CPA の三つだけでよいと伝える。
- 成果の定義を営業の言葉で渡す。 「問い合わせ」ではなく「商談化した問い合わせ」を成果として共有し、月次で商談化率を代理店に返す。代理店はこの情報があると、配信の質を上げられます。
- クリエイティブの意図を聞き、ページ側は自分たちで直す。 広告文とページの整合性は、両方を見ている発注側しか判断できません。
代理店側から見た、良い発注者
代理店にいた立場から言うと、成果が出る発注者には共通点があります。自社の顧客のことを、代理店より詳しく語れることです。どんな人が買うのか、何に困っているのか、どんな言葉に反応するのか。この情報を代理店に渡してくれる発注者の広告は、当たります。逆に「そこも含めて考えてほしい」という発注者は、代理店が一般論で配信を組むしかなく、外れます。
広告運用の専門性は代理店にありますが、顧客理解の専門性は発注側にあります。この分担を理解している発注者は、丸投げにはなりません。
よくある質問
代理店のレポートが分かりにくいのですが、どこを見ればよいですか?
CPA・CVR・CTR の三つと、それぞれの先週比・先月比だけを見てください。それ以外の数字は、三つに異常が出たときに原因を探るためのものです。三つの数字を一枚で毎週出してほしい、と依頼して構いません。
代理店の手数料の目安はどのくらいですか?
広告費の 20% 前後が一般的ですが、手数料率で代理店を選ぶと失敗します。見るべきは、ストーリーの設計を一緒にやってくれるか、中間指標を週次で共有してくれるか、成果の定義を営業の言葉で受け取ってくれるか、です。手数料が安くても丸投げ構造になる代理店は、結果として高くつきます。
まとめ
- 丸投げの失敗は、ゴール設定しかしないことから起きる
- 先に成功までのストーリーを定義し、途中に中間指標を置く
- 発注側が見る数字は CPA・CVR・CTR の三つ。三つの関係で診断する
- 成果の定義を営業の言葉で渡し、商談化率を代理店に返す
- 広告運用の専門性は代理店に、顧客理解の専門性は発注側にある
広告を代理店に任せるなら、ゴールではなくストーリーを渡す。それだけで結果は変わる、というのが両側を見てきた私の実感です。