「事業開発(Business Development、BizDev)」という職種は、会社によって中身がまったく違います。営業の別名になっている会社もあれば、アライアンス専門の部署を指す会社もあり、新規事業の立ち上げ全般を担う会社もあります。転職市場でも、求人票の「事業開発」が何を意味しているのかは、読んでも分からないことが多い。
私は営業として売上を作る仕事と、新規事業やパートナーチャネルの立ち上げという事業開発の仕事を、両方担ってきました。この記事では、私自身が使っている定義と、その境界線、そして事業開発が最も時間を使うべきことを書きます。
定義:営業は「価値を売上に変える」、事業開発は「売上の仕組みを作る」
私の定義はこうです。
- 営業:既にある価値を、売上に変える仕事
- 事業開発:新しい売上の仕組みそのものを、作る仕事
営業は、商品・価格・ターゲット・チャネルが決まった状態で、その中で最大の売上を作ります。優れた営業は、決められたモデルの中で、提案の質と行動量とプロセス管理で成果を伸ばします。
事業開発は、その「決められたモデル」自体を作ります。誰に売るのか、何をいくらで売るのか、どのチャネルで届けるのか、パートナーを入れるのか、どんな収益構造にするのか。これらが決まっていない、あるいは決まっているものを変える必要がある局面で動く仕事です。
境界線:「営業モデルの中で売っているか、営業モデルを作っているか」
二つの定義は分かりやすいのですが、実務ではしばしば混ざります。営業が新しい業界に初めて提案するとき、それは営業なのか事業開発なのか。パートナー企業と一緒に案件を進めるとき、それはどちらなのか。
私が最も重視している境界線は一つです。決められた営業モデルの中で売上を作っているのか、営業モデルそのものを作っているのか。
新しい業界に既存の商品と価格で提案するなら、それはモデルの中で売っている営業です。一方、その業界向けに価格体系を変え、提案の形を変え、場合によっては商品の提供範囲を変えるなら、それはモデルを作っている事業開発です。パートナーと案件を進めるのも、既存の契約と手数料の枠内なら営業、パートナーとの取り組み方そのものを設計しているなら事業開発です。
この境界線で見ると、「事業開発」という肩書きがなくても事業開発をしている人はいますし、逆に肩書きが事業開発でも営業をしている人もいます。肩書きより、モデルを作っているかどうかで判断したほうが、自分の仕事の価値を説明しやすくなります。
事業開発が最も時間を使うべきこと:スケールする収益構造
では、事業開発は具体的に何に時間を使うのか。私が BizDev として最も時間を使っていたのは、どうすればよりスケールする収益構造が作れるかを考え、試すことでした。
営業の人数に比例してしか伸びない売上は、スケールしません。一人の営業が取れる案件数には上限があり、増員にはコストと時間がかかる。事業開発の仕事は、この比例関係を壊す仕組みを作ることです。
具体的には、次のような問いに答えていくことになります。
- チャネル:自社の営業だけでなく、パートナーや代理店を通じて届けられないか。届けるなら、相手が動く設計はどうするか
- 価格と契約:単発の売上ではなく、継続的な収益になる契約形態に変えられないか
- 提供範囲:商品の一部を切り出す、あるいは組み合わせることで、これまで届かなかった顧客層に届かないか
- 紹介の仕組み:既存顧客やパートナーからの紹介が、偶然ではなく仕組みとして起きる設計にできないか
私は前職の Flywheel Digital Japan で、代理店とのパートナーシップを 0 から立ち上げました。これは自社の営業リソースの外に販売チャネルを作る、まさに収益構造を変える仕事でした。また、以前マネジメントしていた営業組織では、複数の紹介プログラムを横断で企画・実行しました。これも「営業が一件ずつ取る」以外の獲得経路を仕組みにする試みです(詳しくはリファラルプログラムの設計方法に書きました)。
事業開発の実務の流れ
私が新しい売上の仕組みを作るときの流れを、手順として書きます。
- 成功時のインパクトから逆算し、やる意味を言い切る
その仕組みが最大限うまくいったとき、売上・利益率・営業リソースに何が起きるか。ここから逆算して「なぜこれをやるのか」を先に決めます。リスクも洗い出したうえで判断する(詳しくは GTM 戦略の作り方に書きました)。
- ユーザーへのヒアリングから仮説を立てる
既存顧客に、環境・困りごと・付き合っている相手を聞く。そこから「この相手に、この形なら動く」という仮説を作る。
- 最初の数社で、個別に試す
汎用の資料を作らず、相手ごとに提案を作って反応を記録する。ここは営業に見えますが、目的は受注ではなく仕組みの検証です。
- 関係者を巻き込み、プロジェクト化する
社内の他部署、パートナー側の関係者。事業開発は一人では完結しません。根回しと、相手のメリットの設計に時間を使う。
- 勝ちパターンを型にして、営業に渡す
再現できる形が見えたら、営業資料・価格表・プロセスに落とし、営業組織が「モデルの中で売る」状態にする。ここで事業開発の仕事は一段落し、営業の仕事に引き継がれます。
最後の手順が重要です。事業開発が作った仕組みを営業に渡し、営業が回せる状態にして、事業開発は次の仕組みに移る。この引き継ぎができないと、事業開発がいつまでも一件ずつ売り続けることになり、スケールしません。
事業開発に向いている人、向いていない人
私の経験から言うと、事業開発に向いているのは、決められたやり方がないことに耐えられる人です。営業は優れたプロセスがあれば成果が安定しますが、事業開発は最初にプロセスがありません。自分で仮説を立て、外れたら書き直す往復を、成果が出るまで続ける必要があります。
逆に、明確な目標と手順の中で最大の成果を出すことに強みがある人は、営業のほうが力を発揮しやすい。どちらが上ということではなく、仕事の性質が違います。
よくある質問
営業経験から事業開発に移るには、何が必要ですか?
「なぜこの顧客は買ったのか」「なぜこの案件は落ちたのか」を、個別の商談の話ではなく、モデルの問題として言語化できるようになることです。営業をしながら、自分の担当領域のモデルの弱点を見つけて提案する経験を積むと、事業開発への移行が自然になります。
小さな会社では、営業と事業開発を分ける必要はありますか?
人を分ける必要はありませんが、時間を分ける必要はあります。同じ人が担う場合でも、「今週はモデルの中で売る時間」「今週はモデルを作る時間」を意識して分けないと、目の前の売上に時間が全部吸われ、仕組みが作られません。
まとめ
- 営業は既にある価値を売上に変える仕事、事業開発は新しい売上の仕組みを作る仕事
- 境界線は「営業モデルの中で売っているか、モデルそのものを作っているか」
- 事業開発が最も時間を使うべきは、営業の人数に比例しない、スケールする収益構造を作ること
- 作った仕組みは営業に引き継ぎ、事業開発は次の仕組みに移る
自分の仕事を「モデルの中か、モデルを作っているか」で見直すと、事業開発という言葉の輪郭がはっきりする、というのが私の実感です。