新規事業のGo-to-Market戦略の作り方 — 最初に決めるのは「その施策をやる意味」

公開 2026.09.23約5分で読めます

Go-to-Market(GTM)戦略を作るときに最初に決めるべきこと、先にやりがちだが後回しにすべきこと、そして途中で戦略を「変える」のではなく「洗練させる」という考え方。新規事業の立ち上げとパートナー開拓の経験から整理します。

Go-to-Market(GTM)戦略という言葉は、フレームワークの解説記事があふれています。ターゲット、価値提案、チャネル、価格。項目を埋めれば形にはなります。ただ、私が新規事業の立ち上げやパートナー開拓に関わってきて思うのは、埋める順番を間違えると、きれいな資料ができて、事業は動かないということです。

この記事では、私が GTM を考えるときに最初に決めること、後回しにすること、そして途中で戦略をどう扱うかを書きます。

最初に決めるのは「その施策のインパクトから逆算した、実行する意味」

私が GTM を考えるとき、最初に決めるのはターゲットでもチャネルでもありません。その施策が成功したときのインパクトを先に置き、そこから逆算して「これを実行する意味」を言い切ることです。

たとえば「パートナー経由の販売チャネルを作る」という施策なら、うまくいったときに売上の何割がそこから来るのか、社内の営業リソースがどれだけ空くのか、競合に対してどんな位置を取れるのか。ここが言えないうちに、パートナーの候補リストを作り始めても、途中で「そもそも何のためにやっているのか」が揺れます。

逆算で決めること
  1. この施策が最大限うまくいったとき、事業に何が起きるか(インパクト)
  2. そのインパクトのために、いま実行する意味は何か(なぜ他の施策ではなくこれか)
  3. 実行に伴うリスクを洗い出し、それでもやると判断できるか

3 番目が大事です。より大きな成功のために、あらゆるリスクを分析したうえで実行する。 リスクを見ないまま始めると、最初の躓きで撤退の議論になります。先に「このリスクは織り込み済み」と言えていれば、躓きは想定内として処理できます。

先にやりがちで、後回しにすべきこと

逆に、多くの人が先にやりがちで、私は後回しにしたほうがよいと思うことがあります。

  • チャネルの選定。 「広告か、インサイドセールスか、パートナーか」を先に決めたがる人は多いのですが、チャネルは「誰に何を届けるか」が決まった後に自然と絞れます。先に決めると、チャネルに合わせて顧客像を歪めることになります。
  • 営業資料と価格表の完成。 訴求点が固まる前の資料は、誰にも刺さりません。最初の数社の提案を個別に作った後で、共通項を資料にするほうが早い(この点は最初の10社を獲得する方法にも書きました)。
  • KPI の細かい設計。 初期は「学習」が目的なので、受注率やリード数を細かく追うより、「何が分かったか」を記録するほうが後で効きます。

戦略は「変える」のではなく「洗練させる」

GTM の途中で方針転換をした経験はありますか、と聞かれることがあります。私の実感は少し違って、途中で方針を変えるというより、進めるうちに「より成功に近づく勝ちパターン」が見えてきて、そこに向けて戦略をアップデートしていく、という感覚です。

最初に立てた仮説が全部当たることはありません。ただ、全部外れることもない。動かしてみると「この業界の、この役職の人には、この言い方が刺さる」という筋が見えてきます。それを見つけたら、当初の戦略を捨てるのではなく、その筋を太くする方向に資源を寄せる。

「ピボット」という言葉が流行りましたが、実務で起きているのは大半が洗練です。最初の設計が大きく間違っていなければ、必要なのは方向転換ではなく、当たった部分への集中です。

GTM を作る実務の手順

私のやり方を、手順として並べます。

  1. 成功時のインパクトを一枚で書く

    売上、利益率、営業リソース、市場での位置。この施策が最大限うまくいったときに事業に何が起きるかを、数字と言葉で一枚にまとめる。ここが弱いなら、施策自体を見直す。

  2. リスクを全部並べて、それでもやるかを決める

    顧客が動かないリスク、社内が回らないリスク、競合が先に動くリスク、規制。並べたうえで「やる」と決めたら、リスクは想定内になる。

  3. 最初に話を聞く相手を、狭く決める

    広いターゲットではなく、最初の数社として話を聞きに行く相手を具体的に決める。業界・規模・部署・役職まで。

  4. 個別提案で数社回し、刺さる筋を見つける

    汎用資料は作らず、相手ごとに提案を作る。反応の差分を記録する。

  5. 勝ちパターンに資源を寄せ、資料と KPI を後から整える

    見えてきた筋に合わせて、営業資料・チャネル・KPI を組む。この順番なら、資料も KPI も現実に合ったものになる。

パートナー開拓を GTM に組み込むとき

私は前職の Flywheel Digital Japan で、広告代理店とのパートナーシップを 0 から立ち上げました。パートナーチャネルを GTM に組み込むときに気をつけていたのは、パートナーにとっての「実行する意味」も同じように設計することです。

自社にとってのインパクトだけを考えたパートナー提案は、相手に断られます。相手の売上、相手の顧客への提供価値、相手の営業担当が動く理由。ここまで設計してから候補企業のリサーチとアプローチに入り、プロジェクト化してステークホルダーを動かしていく。パートナー開拓は、GTM の一部であると同時に、相手側の GTM を代わりに考える仕事でもあります。

よくある質問

GTM 戦略はどのくらいの粒度で文書化すべきですか?

「成功時のインパクト」「実行する意味」「主なリスクと対処」「最初に話を聞く相手」の 4 点が一枚に収まっていれば十分です。チャネル別の施策一覧や詳細な KPI は、動かし始めてから足すほうが現実に合います。

経営陣に GTM を説明するとき、何を最初に伝えるべきですか?

インパクトとリスクです。「うまくいくと何が起きるか」と「何が起きうるか、それにどう備えるか」を先に共有しておくと、途中の躓きが撤退の議論になりにくくなります。

まとめ

  • GTM で最初に決めるのは、成功時のインパクトから逆算した「実行する意味」
  • チャネル選定、資料、細かい KPI は後回しでよい
  • 戦略は途中で「変える」のではなく、見えてきた勝ちパターンに向けて洗練させる
  • パートナー開拓を組み込むなら、相手側の「実行する意味」まで設計する

GTM は資料を完成させる仕事ではなく、実行しながら筋を見つける仕事だと考えています。

REN SUZUKI

ACCOUNT EXECUTIVE, UBER FOR BUSINESS — UBER JAPAN — TOKYO。事業開発・マーケティング・営業の執行を、業務委託で担っています。プロフィール →