自社だけで売り続けるには、営業の人数がそのまま売上の上限になります。それを超えるための選択肢が、代理店やパートナー企業を通じた販売チャネルです。ただ、パートナー開拓は「提携しましょう」と声をかければ始まるものではありません。
私は前職の Flywheel Digital Japan で、リテールメディア広告の最適化ツールを扱う立場として、広告代理店とのパートナーシップを 0 から立ち上げました。候補のリサーチとアプローチから、プロジェクト化してステークホルダーを動かし、協業イベントまで。この記事では、そのときに実際にやった手順を書きます。
候補企業は「仮説」で選ぶ
パートナー候補のリストは、業界名簿を上から並べて作るものではありません。私が候補企業を選んだ根拠は、ユーザーからのヒアリングをもとにした確固たる仮説でした。
自社のサービスをすでに使っている顧客に、どんな代理店と付き合っているか、代理店に何を期待し、何に不満があるかを聞く。そこから「この規模で、この領域を扱う代理店なら、うちのサービスを扱うことで自分たちの顧客に新しい価値を出せる」という仮説が立ちます。この仮説があると、候補リストに優先順位がつき、最初に声をかける相手が決まります。
- 既存顧客が付き合っている代理店・協業先を聞く(顧客が重なる相手が第一候補)
- その相手が顧客に対して提供しきれていない価値は何かを推測する
- 自社サービスを扱うことで、相手の売上・顧客満足・営業のしやすさのどれが上がるかを言葉にする
最初の 1 社は、問い合わせフォームから入った
意外に思われるかもしれませんが、最初のパートナー 1 社には、相手企業の問い合わせフォームから入り込みました。紹介のツテがあれば使いますが、無いなら無いなりに動くしかありません。
フォームから入るときに気をつけたのは、「提携のご提案」という書き方をしないことです。相手にとって提携は、面倒で、リスクがあって、優先度が低い話です。代わりに、相手の顧客が抱えているであろう課題と、それに対して一緒にできることを、仮説として具体的に書きました。相手の事業に踏み込んだ内容であれば、フォーム経由でも担当者は読みますし、返事が来ます。
問い合わせフォームは「営業お断り」の入口に見えますが、実際には相手の事業を理解したうえでの具体的な提案なら、社内で該当部署に回されることが多いです。書き方の問題であって、経路の問題ではありません。
相手側の「やる意味」を、自社の提案より先に設計する
パートナー開拓で最も多い失敗は、自社の都合だけで提案することです。「うちのサービスを扱ってください、手数料はこれです」という提案は、相手にとって動く理由になりません。
私が意識していたのは、パートナーにとっての「実行する意味」を、自社の都合と同じ精度で設計することです。具体的には次の三点です。
- 相手の売上にどうつながるか。 手数料だけでなく、相手の既存サービスの単価が上がるのか、顧客の継続率が上がるのか
- 相手の顧客にとってどんな価値が増えるか。 相手が顧客に対して「新しい提案ができる」状態になるか
- 相手の営業担当が、現場で動く理由があるか。 会社としての合意があっても、営業担当が売りやすくなければ動きません。担当者レベルのメリットまで設計する
三つ目が抜けやすい。会社間の契約はできたのに、相手の営業現場で誰も売らない、というパートナーシップは珍しくありません。
プロジェクト化して、ステークホルダーを動かす
最初の 1 社との会話が進んだら、「提携の合意」で終わらせず、プロジェクトとして立てることが重要でした。
ゴール、期間、双方の担当者、判断が必要な論点、予算。これを一枚にして、双方の関係者を巻き込みます。パートナーシップは、営業同士の握りだけでは回りません。相手側の営業責任者、マーケティング、場合によっては経営層。自社側も同様です。私はこの段階で、ステークホルダーの洗い出しと、それぞれが「何を決めれば動けるか」の整理に最も時間を使いました。
- ゴールと期間を一枚に書く
何をもって成功とするか、いつまでに何を試すか。曖昧なままだと、双方の優先度がすぐに下がります。
- 双方のステークホルダーを洗い出す
決裁者、実行者、影響を受ける部署。相手側の組織図が分からなければ、担当者に直接聞く。
- それぞれの「動ける条件」を確認する
予算の枠、法務の確認、既存の契約との整合。動けない理由を先に潰しておく。
- 小さく始めて、成果を双方の言葉で共有する
最初から全顧客展開ではなく、限定した範囲で始める。出た成果は、相手の社内で使える形(相手の KPI の言葉)で渡す。
協業イベントで、パートナーの顧客に直接届ける
パートナーシップを実際の売上につなげるうえで、最も効いたのが協業イベントでした。パートナーと共同でイベントを開き、パートナーの顧客基盤に向けて自分が登壇し、課題とサービスを直接語る。
このやり方が強いのは、リードが三重に温まっているからです。パートナーの信頼を借りている、課題を聞いた状態で来る、登壇者の顔を知っている。広告経由のリードとは、商談の立ち上がりがまったく違いました。私の経験の中で、費用対効果が最も高かったリード獲得はこのルートです(詳しくはBtoB リード獲得施策の全体像に書きました)。
パートナーにとっても、自社の顧客に向けて新しいテーマのイベントを提供できることは価値になります。ここでも「相手のやる意味」が成立していることが前提です。
よくある失敗
- 業界名簿から候補を選ぶ。 顧客が重なるかどうかの仮説がないと、話が始まっても続きません。
- 「提携のご提案」から入る。 相手にとって提携は優先度が低い。相手の顧客の課題から入る。
- 会社間の合意で終わる。 相手の営業担当が売る理由まで設計しないと、契約だけが残ります。
- 最初から全面展開する。 小さく始めて成果を作り、相手の社内で広げてもらうほうが速い。
よくある質問
パートナーへの手数料はどう決めるべきですか?
手数料の率から考え始めないことを勧めます。まず「相手の営業担当が売りやすくなるか」「相手の顧客に価値が増えるか」を設計し、それでも足りない部分を手数料で補う順番です。手数料だけで動くパートナーは、より高い手数料を出す競合が現れると離れます。
パートナーが動かなくなったとき、どうしますか?
相手の現場の営業担当と直接話します。動かない理由の多くは「売り方が分からない」「自分の評価につながらない」のどちらかで、会社間の関係ではなく現場の設計の問題です。同行、勉強会、成功事例の共有で動き出すことが多いです。
まとめ
- 候補はユーザーへのヒアリングに基づく仮説で選ぶ。顧客が重なる相手が第一候補
- ツテがなければ問い合わせフォームからでも入れる。相手の顧客の課題から書く
- 相手側の「やる意味」を、売上・顧客価値・営業担当の動く理由の三層で設計する
- 合意で終わらせずプロジェクト化し、ステークホルダーの「動ける条件」を先に潰す
- 協業イベントで、パートナーの顧客に直接届ける
パートナー開拓は、自社の売上を伸ばす仕事であると同時に、相手の事業を代わりに考える仕事です。その順番を間違えなければ、0 からでも立ち上がります。