インサイドセールス(IS)を立ち上げたい、という話の多くは「人を採る」か「ツールを入れる」から始まります。架電の担当者を一人採用し、CRM とリストを用意して、まずは電話をかけてもらう。数か月後、アポの数は出ているのに、フィールドセールス(FS)からは「行っても商談にならない」と言われ、IS 側は「アポは渡している」と返す。立ち上げの初期にこの状態になると、IS という機能そのものが社内で信用を失います。
私は約50名規模の営業組織で、Sales Manager として Inside Sales と Field Sales の両チーム、それに営業代行のベンダーを、SV と一緒にマネジメントしていました(社名はここでは控えます)。その後、Flywheel Digital Japan では、日本法人が10名に満たない規模の中で営業フローを組み直し、BDR をマネジメントし、営業データの管理方法を見直しました。規模の違う二つの組織で IS の運用を見てきて、うまくいかない IS の原因の多くは、人を採る前に決めておくべきことが決まっていない点にある、と考えるようになりました。この記事では、ゼロから立ち上げるならこの順番で決める、という手順を書きます。IS と FS の分業の線をどこに引くかはインサイドセールスとフィールドセールスの分業設計に書いたので、ここでは繰り返しません。
立ち上げは「人を採る」から始めない
私がマネジメントしていた組織で、IS 経由のアポが商談にならない理由として最も多く見たのは三つでした。IS 自身がアポを取ることを目的にしていたこと、フィルタリングができていなかったこと、相手のニーズを引き出せていなかったことです。
三つとも、担当者の能力の問題に見えます。ただ、どれも元をたどると設計の問題です。アポの数で評価されれば、誰でもアポを目的にします。何を確認したら FS に渡してよいかが決まっていなければ、フィルタリングはできません。何を聞くかが用意されていなければ、ニーズは引き出せません。つまり三つとも、担当者が電話をかけ始める前に決めておけば、起きにくくできたことです。
だから立ち上げは、人を採る前の設計から始めます。私が勧める順番は次のとおりです。
- 誰に電話をかけるかを決める
ICP を IS が使える粒度に落とし、ターゲットリストを作る。
- FS に渡す条件を決める
どの状態になったら商談として渡すかを、FS と一緒に決める。
- KPI を決める
アポの数ではなく、渡す条件を満たした数と、その後の商談化で測る。
- トークとヒアリング項目を作る
渡す条件から逆算して、電話で何を聞くかを決める。
- ツールと入力ルールを決める
何を、どの定義で記録するかを先に決めてから、ツールを選ぶ。
- 人を採り、立ち上がりを数字で測る
ここで初めて採用する。立ち上がったと判断する基準も、事前に置いておく。
- 営業代行を使うかを判断する
自社で型ができてから、量を足す手段として検討する。
採用が六番目にあることに違和感があるかもしれません。ただ、一から五が決まっていない状態で採用すると、入ってきた担当者が手探りでそれを決めることになります。経験のある人ほど前職のやり方で動き始め、あとから組織の基準に揃えるのに時間がかかります。
1. 誰に電話をかけるか:ICP をリストに落とす
ICP を「電話口で判定できる条件」に書き直す
ICP(理想顧客像)が決まっていても、それがそのまま IS の仕事に使えるとは限りません。「成長中で、営業組織の拡大を検討している企業」は ICP としては成り立っても、リストを作る条件にも、電話で確かめる条件にもなりません。
IS 向けには、ICP を二つに分けて書き直します。一つは、電話をかける前に外から判定できる条件です。業種、従業員規模、拠点、採用中の職種、使っているツールなど。もう一つは、電話をかけないと分からない条件です。現在の課題、検討の時期、決裁に関わる人。前者がリストの条件になり、後者がヒアリング項目になります。ICP そのものの作り方はBtoB の ICP(理想顧客像)の決め方に書きました。
リストは件数より優先順位
立ち上げ時のリストで起きがちなのは、件数を確保することに意識が向き、条件の緩いリストを大量に用意してしまうことです。件数が多いと活動量は出ますが、つながっても話にならない相手が増え、担当者は早い段階で疲れます。
最初は、ICP に最も近い層を優先度の高い順に並べ、上から当たります。優先度の高い層で反応がなければ、疑うべきはターゲットの仮説そのもので、リストを広げても解決しません。反対に、優先度の高い層から商談が出たら、その相手に共通する条件をリストの条件に足していきます。リストは一度作って終わりではなく、商談の結果で書き換えていくものです。
2. FS に渡す条件を、FS と一緒に決める
立ち上げの手順の中で、私が最も時間をかけるべきだと考えているのがここです。
IS 経由のアポが商談にならない問題に対して、私がやったのは、営業に渡す条件を営業と IS で一緒に決め、その条件を IS の評価に入れることでした。立ち上げの段階でこれを先に決めておけば、先ほどの三つの原因のうち、アポが目的になることとフィルタリングができないことは、最初から起きにくくなります。
条件は、たとえば次のような形で書きます。
- 課題:相手が自分の言葉で困りごとを話したか
- 時期:検討を始める時期について、相手から具体的な発言があったか
- 決裁:決裁者が誰か分かったか、もしくは決裁者に話をつなげる人と話せたか
- 予算:予算があるか、または予算を取る手順が分かっているか
四つすべてを満たすまで渡さないとすると、立ち上げ時はほとんど何も渡せなくなります。最初は「課題と時期が確認できたら渡す」程度から始め、FS の商談の結果を見て足したり外したりします。
条件を IS 側だけで決めないことも、ここで押さえておきたい点です。FS が「この状態なら会いに行く」と言える条件でなければ、渡したあとで同じ揉め事が起きます。逆に FS 側だけで決めると、確認項目が多すぎて IS が何も渡せなくなります。両者が同じ場で、過去の商談をいくつか振り返りながら決めると、合意までが早くなります。
渡したあとに FS が「商談になったか、ならなかったか、ならなかったならなぜか」を IS に返す方法も、この段階で決めておきます。返し方が決まっていないと、条件は作っただけで更新されません。線をどこに引き、実績に応じてどう動かすかは、先に挙げた分業設計の記事で詳しく書いています。
3. KPI は「質」を測れる形で置く
アポ数だけを評価にしない
IS の KPI をアポ数だけで置くと、一つ目の原因、つまり IS がアポを取ること自体を目的にする状態が、そのまま作られます。担当者が悪いのではなく、評価がそう動くように設計されているからです。
私は渡す条件を決めたら、その条件を IS の評価に入れていました。立ち上げ時に置く KPI は、三つの層で考えると整理しやすくなります。
- 活動:架電数、つながった数、会話できた数。担当者が自分で管理する数字で、評価の主軸にはしない
- 転換:会話から渡す条件を満たした割合と、渡したものが FS の商談になった割合。評価の主軸はここに置く
- 成果:IS 経由の商談からの受注件数や受注額。評価に直接入れなくても、IS に必ず見せる
転換の層の中でも「渡したものが商談になった割合」は、IS だけでは動かせない数字です。だからこそ、FS と IS が同じ数字を見る理由になります。
立ち上げ初期は、目標より基準値を取る
ゼロから立ち上げるときは、自社のつながる率も商談化率もまだ分かりません。最初から目標値を置こうとすると、根拠のない数字が目標になり、達成しても未達でも何も分かりません。
最初の期間は、目標を置くより、各段階の数字を正確に取ることを優先します。活動からどれだけ会話が生まれ、会話からどれだけ渡せて、渡したものがどれだけ商談になったか。この基準値が取れて初めて、受注目標から逆算した活動量が計算できます。そのためにも、後で書くデータの入力ルールが、最初の電話をかける前に決まっている必要があります。
4. トークスクリプトとヒアリング項目
ヒアリング項目は、渡す条件から逆算する
三つ目の原因、ニーズを引き出せていないことは、トークの問題です。ただ、上手に話せるかどうかより、何を聞くかが決まっているかどうかの問題であることのほうが多いと感じています。
ヒアリング項目は、渡す条件から逆算して作ります。渡す条件に課題と時期があるなら、電話の中でその二つを確かめる質問が要ります。たとえば課題については「今その業務は、どなたがどのように回していますか」と現状から聞き、時期については「見直すとしたら、どのタイミングになりそうですか」と聞く。いきなり「課題はありますか」と聞いても、電話口の相手は「特にない」と答えます。現状を聞き、その中で相手が困っていることを相手の言葉で話してもらう。ニーズを引き出すというのは、この順番のことです。
スクリプトで固めるのは、冒頭と質問の順番
トークスクリプトを一字一句書き込むと、担当者は読み上げることに意識が向き、相手の答えを聞けなくなります。固めるのは、冒頭で何者かを名乗って電話の目的を伝える部分と、聞く質問とその順番です。その間の言い回しは担当者に任せます。
あわせて、よく出る断りの言葉と、そのときの返し方をいくつか用意しておきます。「今は忙しい」「資料を送ってほしい」「他社を使っている」。これらは必ず出るので、立ち上げ前に FS と一緒に返し方を決めておくと、担当者が最初の数日で手詰まりになることが減ります。
スクリプトとヒアリング項目は、最初は仮のものです。実際に電話をかけて、どの質問で会話が止まったか、どの言葉で相手が話し始めたかを記録し、書き換えていきます。
5. ツールとデータ:入力ルールを先に決める
IS の立ち上げで、ツール選びに時間をかけすぎる組織は少なくありません。CRM、架電システム、リスト作成のツール。どれも必要ですが、ツールを先に決めると、ツールの初期設定に合わせて項目が決まり、自社が本当に記録したいことが後回しになります。
先に決めるのは、何を、どの定義で記録するかです。
- 活動の記録:架電、つながった、会話できたの区別。何をもって会話できたとするか
- 商談の段階:どの状態になったら次の段階に進めるか。IS と FS で同じ定義を使う
- 渡す条件の確認状況:条件のうち、どれを確認できたか
- 渡したあとの結果:商談になったか。ならなかった場合の理由
入力ルールとして私が営業組織で徹底していたのは、希望ではなく、観測された事実だけを入力することです。「前向きだった」は入力せず、「来月の会議で検討すると言った」を入力する。IS の記録は FS がそのまま読むものなので、事実と期待が混ざると、商談の前提がずれます。このルールの運用は営業フォーキャストの精度を上げる方法に書きました。
Flywheel Digital Japan では営業データの管理方法を見直し、データへのアクセスと営業オペレーションを効率化しました。人数の少ない組織ほど、記録のルールが曖昧なままだと、一人が抜けたときに顧客とのやり取りの経緯が分からなくなります。小さく始める IS こそ、入力ルールは最初に決めておくべきです。
6. 採用と立ち上がり
採用基準は、ここまで決めたことから作る
一から五が決まると、IS に求めるものがはっきりします。リストの上から電話をかけ続けられること、決まった質問を相手の答えに合わせて聞けること、渡す条件に照らして「まだ渡さない」と判断できること、事実だけを記録できること。採用基準は、この仕事の中身から作ります。
私は部署の採用の取りまとめ役として、採用基準と新入社員のトレーニングを作り直しました。その後、ファネルの各段階の数字が改善しました。採用基準の作り方は営業の採用基準の作り方に、トレーニングの組み方は新人営業のオンボーディング設計に書いています。
最初の一人の前に、責任者が電話をかけてみる
最初の担当者を採る前に、事業責任者や FS 自身が一定期間、電話をかけてみる方法もあります。リストの条件、渡す条件、スクリプトの仮説を、採用前に確かめられるからです。自分で一度もかけていない人が作ったスクリプトは、電話口で使えないことが多い。最初の担当者に渡すのは、少なくとも一度は誰かが実際に使った仮説であるべきです。
最初の担当者を一人で置く場合は、その人が孤立しないようにします。IS が一人だと、比べる相手がいないので、自分の数字が良いのか悪いのかが分かりません。FS や事業責任者と同じ数字を定期的に見る場を、採用と同時に用意しておきます。
立ち上がりは日数ではなく指標で判断する
立ち上がったかどうかは「入社から何か月」ではなく、数字で判断します。たとえば、渡したもののうち FS の商談になった割合が、組織で基準にしている水準に届いたら、一人で任せる範囲を広げる。ゼロからの立ち上げで基準がまだない場合は、責任者が自分でかけた期間の数字や、最初の担当者が安定して出した数字を、次の人の基準にします。
7. 営業代行(ベンダー)をいつ使うか
営業代行は、IS の立ち上げを速める手段として検討されることが多いと思います。私もベンダーを含めた営業組織をマネジメントしていましたが、使うかどうかは、ここまでの一から五が自社で決まっているかで判断します。
ベンダーに向いているのは、型ができたあとで量を足すことや、自社でまだ当たっていないセグメントに短い期間で当たって反応を見ることです。向いていないのは、渡す条件やトークをベンダーに考えてもらうことです。条件が決まっていない状態で任せると、アポの数は出ても、質の低いアポが FS に流れ込みます。
ベンダーを入れる場合も、自社の IS と同じ渡す条件を共有し、商談になったかどうかの結果を返します。その運用は分業設計の記事に書いたので、ここでは契約前に確認しておくことだけ挙げます。
営業代行の契約前に確認しておきたいのは、渡す条件を契約や運用のルールに入れられるか、架電の記録を自社のツールに残してもらえるか、トークの改善をどちらが担うか、の三点です。記録が自社に残らない形にすると、契約が終わったときに、どの相手に何を聞いて何が分かったかが手元に残りません。
外部に頼むなら、どう頼むか
IS の立ち上げを外部の人に手伝ってもらう場合、頼む前に次のものを用意しておくと、最初の打ち合わせから具体的な話ができます。
- 今の数字:直近のリード数、商談数、受注数。IS がまだなければ、FS が自分でアポを取っている場合の数字
- これまで試したこと:過去に電話をかけた実績、使ったリスト、うまくいかなかった理由の仮説
- FS 側の窓口:渡す条件を一緒に決める相手が誰か
- ICP の現状:言語化されているか、どこまで検証されているか
頼む範囲は、成果物で区切ると分かりやすくなります。たとえば「渡す条件と KPI を決めるところまで」「ヒアリング項目とスクリプトを作り、最初の担当者が立ち上がるところまで」「営業代行の選定と、条件の共有・結果の管理の仕組みまで」。範囲を「IS の立ち上げ全般」とすると、何ができたら終わりなのかが双方で分からなくなります。
一方で、社内に残すべきものもあります。渡す条件の最終的な合意は、自社の FS と IS が持つものです。外部の人が作った条件を渡されても、FS が納得していなければ使われません。顧客との会話から分かったこと、つまり ICP を書き直す材料も、社内に溜めていく必要があります。評価をどう設計するかの最終判断は、事業責任者の仕事です。外部の役割は、決めるための材料と叩き台を用意し、運用が回るところまで一緒に見ることだと考えています。
私はこうした営業組織の立ち上げや見直しを、業務委託や顧問の形で手伝っています。関わり方は営業組織の立ち上げ・改善にまとめました。
よくある質問
最初の IS 担当者は、経験者を採るべきですか?
最初の一人に限っては、経験者のほうが進めやすいと考えています。最初の担当者は電話をかけるだけでなく、スクリプトや渡す条件の仮説を一緒に書き換える役割も担うからです。ただし、見るべきは経験の長さより、決めた条件に沿って「まだ渡さない」と判断できるか、事実だけを記録できるかです。型ができた後の二人目以降は、未経験者でも立ち上げやすくなります。
自社で IS を作るのと、営業代行に任せるのは、どちらを先にすべきですか?
少なくとも、渡す条件とヒアリング項目は自社で先に決めることを勧めます。それが決まっていれば、実際の架電を最初からベンダーに任せる選択もあり得ます。決まっていない状態で任せると、ベンダーの成果の良し悪しを判断する基準が自社にありません。
立ち上げてから成果が出るまで、どれくらいかかりますか?
商材の単価や検討期間によって大きく変わるので、期間で答えるのは難しい質問です。代わりに、段階で区切って確認することを勧めます。各段階の基準値が取れたか、渡す条件に FS が合意しているか、渡したものが商談になる割合が安定してきたか。この順に進んでいれば、受注の数字は後からついてきます。
まとめ
- 立ち上げは人を採るところから始めない。IS がうまくいかない原因の多くは、電話をかける前の設計にある
- ICP は、外から判定できる条件と電話で確かめる条件に分け、前者でリストを作る
- 渡す条件は FS と一緒に決め、IS の評価に入れる。商談になったかどうかを必ず IS に返す
- KPI は活動・転換・成果の三つの層で置き、評価の主軸は転換に置く。初期は目標より基準値を取る
- ヒアリング項目は渡す条件から逆算し、入力ルールはツールより先に決める
- 採用は六番目。営業代行は、自社で型ができてから量を足す手段として使う
IS の成果は、担当者の頑張りよりも、最初の電話をかける前に何を決めたかで大部分が決まる。約50名の組織と少人数の組織の両方で IS を見てきた、私の実感です。