営業組織が一定の規模になると、インサイドセールス(IS)とフィールドセールス(FS)に分けるのが定石になっています。IS が電話やメールで接点を作り、FS が商談して受注する。教科書的には正しいのですが、実際に運用すると、この分業の「線」をどこに引くかで組織の成果は大きく変わります。
私は約50名規模の営業組織で、Inside Sales と Field Sales の両チーム、および営業代行のベンダーをマネジメントしていました(社名はここでは控えます)。この記事では、私が引いていた分業の線、そしてその線を実績に応じて引き直した経験を書きます。
基本の線:アポまでが IS、商談から受注までが FS
私の組織での基本の分業は、シンプルでした。アポイントを取るまでが IS、そのアポで商談をして受注するまでが FS。
IS はリストに対して電話やメールで接点を作り、相手の状況を確認し、商談の日程を押さえる。FS はその商談に出て、提案し、受注まで持っていく。役割がはっきりしているので、それぞれの KPI も置きやすい。IS はアポ数と商談化率、FS は商談数と受注率。
ただ、この線には最初から弱点があります。IS の成果が「アポを取ること」で完結すると、アポの質が問われなくなることです。IS 経由のリードが商談にならない原因として私が最も多く見たのは、IS 自身がアポを取ることを目的にしてしまう、フィルタリングができていない、ニーズを引き出せていない、の三つでした。分業の線がはっきりしているほど、この弱点は出やすくなります(詳しくはBtoB リード獲得施策の全体像に書きました)。
- IS:接点づくり → 状況確認 → アポ獲得(KPI:アポ数、商談化率)
- FS:商談 → 提案 → 受注(KPI:商談数、受注率、受注額)
- 弱点:線がはっきりしているほど、IS が「アポの数」に最適化し、質が落ちる
線は、実績の進捗に応じて引き直す
ここが本題です。私は分業の線を一度引いて固定するのではなく、Actual の数値の進捗に応じて、細かに線を引き直していました。
たとえば、FS の商談数が受注目標に対して足りていないとき。IS がアポを増やそうとしても、質の低いアポが増えるだけで商談化率が下がる局面があります。このとき私がやったのは、IS にも商談まで実行してもらうことでした。IS が自分で取ったアポに自分で出て、提案までする。
これには二つの効果がありました。一つは、FS の商談枠を、確度の高い案件に集中させられること。もう一つは、IS が自分のアポの質を、自分の商談で体感することです。自分が取ったアポに自分で出ると、「このアポは商談にならない」が身体で分かる。フィルタリングの精度は、フィードバックをもらうより、自分で商談に出たほうが速く上がりました。
逆に、案件の単価が高く、提案に専門性が必要な領域では、線を IS 側に戻し、IS は接点と状況確認に集中、FS が早い段階から入る形にしました。
分業の線は組織図ではなく、その月の数字を見て決める運用の道具です。「うちは IS がアポ、FS が商談」と固定してしまうと、数字が崩れたときに打つ手がなくなります。
線を引き直すときの判断軸
私が線を動かすときに見ていた数字と、その判断を整理します。
- 商談化率が下がっているなら、IS の質を疑う
アポ数は取れているのに商談化率が落ちている。この場合、IS に商談まで持たせるか、営業に渡す条件を厳しくする。アポ数の目標を上げるのは逆効果。
- FS の商談枠が余っているなら、線を IS 側に寄せる
FS が商談を待っている状態なら、IS の確認項目を減らし、早めに FS に渡す。確度は落ちるが、FS の時間が使われないほうが損失が大きい。
- FS の商談枠が足りないなら、IS に商談を持たせる
FS が回りきれないなら、IS が自分のアポの一部を商談まで担う。FS は高単価・高難度の案件に集中する。
- 受注率が落ちているなら、渡す条件と提案を見直す
商談はできているのに受注しないなら、IS の渡す条件(決裁者への距離、予算の確認)と、FS の提案内容の両方を見る。分業の線だけでは解決しない。
- 月次で線を確認し、変えたら全員に理由を伝える
線を動かすときは、なぜ動かすのかを数字で説明する。理由が伝わらないと、IS も FS も「自分の仕事が増えた・減った」としか受け取らない。
ベンダー(営業代行)を含めた分業
自社の IS・FS に加えて、営業代行のベンダーを使う組織も多いと思います。私の組織でもベンダーをマネジメントしていました。
ベンダーを入れるときの分業で気をつけていたのは、ベンダーに渡す領域の「線」を、自社の IS と同じ基準で引くことです。ベンダーだけ「アポを取ってくれればよい」という基準にすると、質の低いアポが自社の FS に流れ込み、自社 IS の努力が薄まります。ベンダーにも同じ「渡す条件」を共有し、商談化率でフィードバックを返す。ベンダーは外部ですが、分業の一部である以上、同じ数字で管理する必要があります。
分業を機能させる前提
分業の線をどこに引いても、次の三つがないと機能しません。
- 「営業に渡す条件」の言語化。 どの状態のアポなら FS に渡すのか。ここが曖昧だと、線を動かしても意味がありません。
- IS への商談化率のフィードバック。 渡したアポがどうなったかを、必ず IS に返す。
- IS の評価に商談化率を入れる。 アポ数だけで評価すると、線をどこに引いても質は上がりません。
この三つは、分業の設計というより、分業の前提です。ここが整っていれば、線はその月の数字に合わせて自由に動かせます。
よくある質問
IS と FS の分業は、何人くらいの組織から始めるべきですか?
人数よりも「営業が初回接点に時間を取られて、受注活動が滞っているか」で判断します。営業が自分で初回接点まで持てているうちは、分業しないほうが商談化率は高い。滞り始めたら、まず一人を IS に寄せて、線の引き方を試す。
IS に商談まで持たせると、IS のモチベーションはどうなりますか?
私の経験では、上がることが多かったです。自分の取ったアポの先が見えるようになり、受注に関わった実感が持てるからです。ただし、評価と報酬がアポ数のままだと「仕事だけ増えた」になるので、商談化や受注への貢献を評価に入れることが前提です。
まとめ
- 基本の線は、「アポまでが IS、商談から受注までが FS」。ただし線がはっきりするほど IS の質が落ちる弱点がある
- 線は固定せず、実績の進捗に応じて引き直す。FS が足りないなら IS に商談を持たせ、余っているなら早く渡す
- ベンダーも同じ「渡す条件」と商談化率で管理する
- 前提は、渡す条件の言語化、フィードバックの往復、IS の評価に商談化率を入れること
分業は組織図で決めるものではなく、その月の数字で動かす道具だ、というのが約50名の組織を見てきた私の実感です。