インサイドセールスとフィールドセールスの分業設計 — 線は一度引いて終わりではない

公開 2026.09.23約5分で読めます

インサイドセールス(IS)とフィールドセールス(FS)の分業をどこで区切るか。「アポまでが IS、商談から受注までが FS」という基本の線と、実績の進捗に応じて線を引き直した経験(IS が商談まで担うなど)。約50名の営業組織で Inside / Field 両チームとベンダーをマネジメントした経験から書きます。

営業組織が一定の規模になると、インサイドセールス(IS)とフィールドセールス(FS)に分けるのが定石になっています。IS が電話やメールで接点を作り、FS が商談して受注する。教科書的には正しいのですが、実際に運用すると、この分業の「線」をどこに引くかで組織の成果は大きく変わります。

私は約50名規模の営業組織で、Inside Sales と Field Sales の両チーム、および営業代行のベンダーをマネジメントしていました(社名はここでは控えます)。この記事では、私が引いていた分業の線、そしてその線を実績に応じて引き直した経験を書きます。

基本の線:アポまでが IS、商談から受注までが FS

私の組織での基本の分業は、シンプルでした。アポイントを取るまでが IS、そのアポで商談をして受注するまでが FS。

IS はリストに対して電話やメールで接点を作り、相手の状況を確認し、商談の日程を押さえる。FS はその商談に出て、提案し、受注まで持っていく。役割がはっきりしているので、それぞれの KPI も置きやすい。IS はアポ数と商談化率、FS は商談数と受注率。

ただ、この線には最初から弱点があります。IS の成果が「アポを取ること」で完結すると、アポの質が問われなくなることです。IS 経由のリードが商談にならない原因として私が最も多く見たのは、IS 自身がアポを取ることを目的にしてしまう、フィルタリングができていない、ニーズを引き出せていない、の三つでした。分業の線がはっきりしているほど、この弱点は出やすくなります(詳しくはBtoB リード獲得施策の全体像に書きました)。

基本の分業と、その弱点
  • IS:接点づくり → 状況確認 → アポ獲得(KPI:アポ数、商談化率)
  • FS:商談 → 提案 → 受注(KPI:商談数、受注率、受注額)
  • 弱点:線がはっきりしているほど、IS が「アポの数」に最適化し、質が落ちる

線は、実績の進捗に応じて引き直す

ここが本題です。私は分業の線を一度引いて固定するのではなく、Actual の数値の進捗に応じて、細かに線を引き直していました。

たとえば、FS の商談数が受注目標に対して足りていないとき。IS がアポを増やそうとしても、質の低いアポが増えるだけで商談化率が下がる局面があります。このとき私がやったのは、IS にも商談まで実行してもらうことでした。IS が自分で取ったアポに自分で出て、提案までする。

これには二つの効果がありました。一つは、FS の商談枠を、確度の高い案件に集中させられること。もう一つは、IS が自分のアポの質を、自分の商談で体感することです。自分が取ったアポに自分で出ると、「このアポは商談にならない」が身体で分かる。フィルタリングの精度は、フィードバックをもらうより、自分で商談に出たほうが速く上がりました。

逆に、案件の単価が高く、提案に専門性が必要な領域では、線を IS 側に戻し、IS は接点と状況確認に集中、FS が早い段階から入る形にしました。

分業の線は組織図ではなく、その月の数字を見て決める運用の道具です。「うちは IS がアポ、FS が商談」と固定してしまうと、数字が崩れたときに打つ手がなくなります。

線を引き直すときの判断軸

私が線を動かすときに見ていた数字と、その判断を整理します。

  1. 商談化率が下がっているなら、IS の質を疑う

    アポ数は取れているのに商談化率が落ちている。この場合、IS に商談まで持たせるか、営業に渡す条件を厳しくする。アポ数の目標を上げるのは逆効果。

  2. FS の商談枠が余っているなら、線を IS 側に寄せる

    FS が商談を待っている状態なら、IS の確認項目を減らし、早めに FS に渡す。確度は落ちるが、FS の時間が使われないほうが損失が大きい。

  3. FS の商談枠が足りないなら、IS に商談を持たせる

    FS が回りきれないなら、IS が自分のアポの一部を商談まで担う。FS は高単価・高難度の案件に集中する。

  4. 受注率が落ちているなら、渡す条件と提案を見直す

    商談はできているのに受注しないなら、IS の渡す条件(決裁者への距離、予算の確認)と、FS の提案内容の両方を見る。分業の線だけでは解決しない。

  5. 月次で線を確認し、変えたら全員に理由を伝える

    線を動かすときは、なぜ動かすのかを数字で説明する。理由が伝わらないと、IS も FS も「自分の仕事が増えた・減った」としか受け取らない。

ベンダー(営業代行)を含めた分業

自社の IS・FS に加えて、営業代行のベンダーを使う組織も多いと思います。私の組織でもベンダーをマネジメントしていました。

ベンダーを入れるときの分業で気をつけていたのは、ベンダーに渡す領域の「線」を、自社の IS と同じ基準で引くことです。ベンダーだけ「アポを取ってくれればよい」という基準にすると、質の低いアポが自社の FS に流れ込み、自社 IS の努力が薄まります。ベンダーにも同じ「渡す条件」を共有し、商談化率でフィードバックを返す。ベンダーは外部ですが、分業の一部である以上、同じ数字で管理する必要があります。

分業を機能させる前提

分業の線をどこに引いても、次の三つがないと機能しません。

  • 「営業に渡す条件」の言語化。 どの状態のアポなら FS に渡すのか。ここが曖昧だと、線を動かしても意味がありません。
  • IS への商談化率のフィードバック。 渡したアポがどうなったかを、必ず IS に返す。
  • IS の評価に商談化率を入れる。 アポ数だけで評価すると、線をどこに引いても質は上がりません。

この三つは、分業の設計というより、分業の前提です。ここが整っていれば、線はその月の数字に合わせて自由に動かせます。

よくある質問

IS と FS の分業は、何人くらいの組織から始めるべきですか?

人数よりも「営業が初回接点に時間を取られて、受注活動が滞っているか」で判断します。営業が自分で初回接点まで持てているうちは、分業しないほうが商談化率は高い。滞り始めたら、まず一人を IS に寄せて、線の引き方を試す。

IS に商談まで持たせると、IS のモチベーションはどうなりますか?

私の経験では、上がることが多かったです。自分の取ったアポの先が見えるようになり、受注に関わった実感が持てるからです。ただし、評価と報酬がアポ数のままだと「仕事だけ増えた」になるので、商談化や受注への貢献を評価に入れることが前提です。

まとめ

  • 基本の線は、「アポまでが IS、商談から受注までが FS」。ただし線がはっきりするほど IS の質が落ちる弱点がある
  • 線は固定せず、実績の進捗に応じて引き直す。FS が足りないなら IS に商談を持たせ、余っているなら早く渡す
  • ベンダーも同じ「渡す条件」と商談化率で管理する
  • 前提は、渡す条件の言語化、フィードバックの往復、IS の評価に商談化率を入れること

分業は組織図で決めるものではなく、その月の数字で動かす道具だ、というのが約50名の組織を見てきた私の実感です。

REN SUZUKI

ACCOUNT EXECUTIVE, UBER FOR BUSINESS — UBER JAPAN — TOKYO。事業開発・マーケティング・営業の執行を、業務委託で担っています。プロフィール →