営業組織の採用は、いつの間にか「人を増やすこと」自体が目的になります。目標人数があり、期限があり、面接の枠が埋まっていく。そして半年後に、組織がいま必要としているスキルを持った人が、ほとんど採れていなかったことに気づく。
私は約50名規模の営業組織で、部署の採用の PoC(取りまとめ役)として、採用基準の見直し、面接、新入社員トレーニングの再設計を担当しました(社名はここでは控えます)。この記事では、作り直す前に何が問題だったか、作り直した基準は何か、面接でどう見極めるかを書きます。
作り直す前:人を増やすことが目的になっていた
刷新前の採用は、明確な基準というより「営業経験があって、感じが良くて、やる気がありそう」という感覚に近いものでした。それ自体が悪いわけではありません。ただ、この基準だと、「今の組織が求める経験やスキル」を持っているかどうかが判定できない。
結果として起きていたのは、人数は増えているのに立ち上がりが遅く、トレーニングに時間がかかり、マネージャーの時間が新人のフォローに溶けていく、という状態でした。採用の入口で判定できていないものを、入社後の教育で埋めようとしていたわけです。
採用の目的が「人数を埋めること」になっていて、「組織がいま必要なスキルを持つ人を入れること」になっていなかった。
作り直した採用基準:4 つ
見直した基準は、次の 4 つに絞りました。
1. 求めるスキルに、再現性があるか
「営業経験 3 年」ではなく、組織がいま必要としているスキルを具体的に定義し、そのスキルを別の環境でも再現できるかを見ます。たとえば新規開拓が必要な組織なら、「初対面の相手から課題を引き出し、提案につなげる」という行為を、前職とは違う商材・顧客でもできそうか。
再現性を見る理由は、前職の実績が「本人の力」なのか「環境の力」なのかを切り分けるためです。強いブランドと潤沢なリードがある環境での実績は、環境が変わると再現されないことがあります。
2. そのスキルで、顕著な実績を作った経験があるか
スキルがあるだけでなく、それを使って目に見える結果を出したことがあるか。目標比で何パーセント、どんな案件を、どんな状況で取ったか。抽象的な「頑張りました」ではなく、具体的な数字と状況で語れるか。
ここで重要なのは、実績の大きさより「本人がその実績をどう説明するか」です。何が要因で、何が偶然で、次にやるなら何を変えるか。ここが言える人は、次の環境でも再現できる可能性が高い。
3. ベースのスキル:ロジカルシンキング、地頭、頭の回転
営業のスキルは教えられますが、論理的に考える力、状況を素早く理解する力、会話の中で頭を回す速さは、短期間のトレーニングでは埋まりません。
営業は商談の場で、相手の発言を受けて即座に構造化し、次の質問を選ぶ仕事です。ここが遅いと、どれだけトークを覚えても、想定外の会話で止まります。
4. 素直で、吸収が柔軟かつ速そうか
最後は、フィードバックを受け取って、すぐ行動を変えられるか。経験者ほど自分の型を持っていますが、新しい組織のやり方を一度は吸収してから、自分の型と混ぜられる人が伸びます。
素直さは「言われたことをやる」ではありません。「なぜそうするのか」を理解しようとし、納得したら速く変える、という姿勢のことです。
基準は必ず定量化する
4 つの基準を言葉で決めただけでは、まだ「感覚」の域を出ません。私が採用を成功させるうえで欠かせないと考えているのが、基準を定量的にすることです。
具体的には、4 つの基準それぞれを 5 段階で採点し、面接官全員が同じ表で点をつける。合格ラインは合計点ではなく、「地頭」と「素直さ」に最低点を置く形にしていました。合計で高くても、この 2 つのどちらかが低い候補者は通さない。経験で補えないものを、点数の構造で守るためです。
定量化には三つの効果があります。
- 面接官の間で判断が揃う。 「良さそう」「合わなそう」という感想が、点数と根拠に置き換わる
- 採用後に振り返れる。 半年後に活躍している人と、そうでない人の入社時の点数を比べると、基準そのものの精度が分かる
- 「人数を埋める」圧力に耐えられる。 目標人数が迫っても、合格ラインを下回る候補者を通す判断が、数字として見えるので歯止めになる
三つ目が実務では最も効きます。基準が感覚のままだと、期末が近づくにつれて「今回は良いか」が積み重なり、半年後に立ち上がらない人が並びます。点数にしておけば、その妥協が記録に残る。記録に残るものは、人は妥協しにくくなります。
面接での見極め方
基準を作っても、面接で見極められなければ意味がありません。私がやっている見極め方を、基準ごとに書きます。
- 再現性:実績を「環境」と「本人」に分解して聞く
「その実績のうち、会社のブランドやリードの質など環境の力が何割で、あなた自身の工夫が何割だったと思いますか」と直接聞く。答えの割合より、分解して語れるかどうかを見る。
- 顕著な実績:数字と状況を、深掘りで確認する
「目標比何パーセントでしたか」「その期にチームの平均はどうでしたか」「一番大きい案件はどう取りましたか」と、具体を三段階掘る。深掘りに耐える実績は本物である可能性が高い。
- 地頭・頭の回転:面接中に、その場で考えさせる
準備できる質問ではなく、「もしうちの商材を、あなたの前職の顧客に売るなら、最初に誰に、何と言いますか」のように、その場で構造化が必要な問いを一つ入れる。結論の正しさより、考える過程の速さと筋の良さを見る。
- 素直さ:面接の中でフィードバックしてみる
回答に対して「私はこう思うのですが、どうですか」と一度だけ意見をぶつける。反発するか、無条件に同意するか、受け止めたうえで自分の考えを再構成するか。三つ目の反応が出る人は、入社後も伸びる。
4 つの基準に順位をつけるなら、私は 3 と 4(地頭と素直さ)を上に置きます。1 と 2 は経験に依存し、入社後のトレーニングで補える部分がありますが、3 と 4 は補いにくいからです。
採用基準とトレーニングは、一体で設計する
採用基準を作り直したとき、同時に新入社員トレーニングも再設計しました。理由は、採用で「何を持っている人を採るか」を決めると、「入社後に何を教えるべきか」が自動的に決まるからです。
基準 3・4 を満たす人を採るなら、トレーニングは商材知識と自社の営業プロセスに集中できます。逆に、基準を曖昧にしたまま採ると、トレーニングで基礎的な思考力まで教えようとして、時間が足りなくなる。採用基準の見直しは、トレーニングの短縮にもつながりました。
よくある質問
未経験者を採る場合、この基準はどう使いますか?
1 と 2 は「営業以外の経験」に置き換えて聞きます。学生時代の活動、前職の別職種、どんな領域でも「再現性のあるスキル」と「顕著な実績」は語れます。3 と 4 はそのまま使えます。むしろ未経験者は 3 と 4 で判断すべきです。
採用基準を厳しくすると、採用人数が足りなくなりませんか?
短期的には減ります。ただ、基準を満たさない人を採ると、トレーニングとフォローでマネージャーの時間が消え、既存メンバーの成果も落ちます。「採用人数」ではなく「半年後に自走している人数」で見ると、基準を上げたほうが多くなる、というのが私の経験です。
面接官が複数いるとき、判断をどう揃えますか?
4 つの基準ごとに、面接後に一言でメモを残す形式に統一します。「地頭:その場の問いに構造化して答えた」「素直さ:意見をぶつけたら再構成した」。感想ではなく観察した事実を書くと、面接官の間で判断が揃いやすくなります。
まとめ
- 採用の目的が、「人数を埋める」になっていないかを、まず疑う
- 基準は ①再現性のあるスキル ②顕著な実績 ③地頭・頭の回転 ④素直さの 4 つ
- 基準は 5 段階で採点して定量化し、地頭と素直さに最低点を置く。面接官の判断が揃い、採用後に振り返れる
- 面接では、実績を環境と本人に分解させ、その場で考えさせ、一度意見をぶつける
- 採用基準とトレーニングは一体で設計する。何を採るかが決まれば、何を教えるかが決まる
営業組織の強さは、採用の入口でほぼ決まります。教育で挽回できる範囲は、思っているより狭い、というのが私の実感です。