新規事業で最初の10社を獲得する方法 — 訴求点がまだ無い商品を、どう売るか

公開 2026.09.22約5分で読めます

実績も事例もない新サービスの法人開拓で、最初の10社をどう取るか。偶発的な紹介から始まった1社目、ニーズの発見をくれた2社目、そこから提案を型にしていく手順を、実際に立ち上げに関わった経験から書きます。

新規事業の法人開拓でいちばん苦しいのは、「一般的な訴求点」がまだ存在しないことです。導入事例はゼロ、比較される既存カテゴリも無い、営業資料を作ろうとしても「誰の、どんな課題に効くのか」が自分たちにもまだ言い切れない。この状態で最初の10社をどう取るか。

私は現職で、法人向けの新しいサービスの立ち上げ期に営業として関わりました(サービス名と社名はここでは控えます)。この記事では、そのときに実際にやったこと、途中で気づいたことを、手順の形に整理して書きます。

最初の1社は「偶発的な紹介」から始まった

正直に書くと、1社目は狙って取ったものではありません。きっかけは偶発的な紹介でした。ただ、紹介をもらった後の動き方には、はっきりと再現できる部分があります。

1社目でやったこと
  • 商品の説明から入らず、相手の業務と困りごとを先にヒアリングした
  • 聞いた内容に合わせて、提案書をその相手のためだけに作った
  • 相手の要望に応えられるよう、社内の関係部署を先に巻き込んで調整した

新サービスには「これが売りです」と言い切れるものがまだありません。だから相手の課題を先に聞き、その課題に対して自社のサービスがどう役立つかを、相手の言葉で組み立て直す必要があります。1社目の提案書は、汎用資料の使い回しではなく、ほぼゼロから書きました。

そしてもう一つ大事なのが社内調整です。新サービスの初期は、料金体系も運用フローも固まっていないことが多い。相手のニーズに応えるには、営業が「できます」と言うだけでは足りず、オペレーションや開発の担当者と先に話をつけておく必要があります。提案の前に社内を動かしておくことが、初期顧客の獲得では提案そのものと同じくらい重要でした。

2社目で、提供側が思いつかないニーズを見つけた

転機は2社目でした。導入が決まった後に相手と話していて、私たち提供側の視点では思いつかなかった、消費者目線だからこそ出てくるニーズがあることに気づいたのです。

これは新規事業ではよく起きます。サービスを作った側は「こう使ってほしい」という想定を持っていますが、実際に使う側は、自分たちの日常の文脈でまったく別の価値を見つける。2社目の発見を提案の軸に加えたことで、3社目以降の会話はずいぶん楽になりました。

ここで言いたいのは「顧客の声を聞きましょう」という一般論ではありません。2社目までは、ニーズを発見するための営業だと最初から割り切る、ということです。売れなくても、聞けたことに価値がある期間です。

最初の10社を取るまでの手順

私の経験を、手順として並べ直すと次のようになります。

  1. 1〜2社目:紹介を起点に、とにかく深く聞く

    既存の取引先、社内の別部署、知人。どこからでも良いので、話を聞いてくれる相手を見つける。ここでは受注率よりも「どんな課題を持つ人がどう反応するか」を記録することを優先します。

  2. 提案書を毎回ゼロから書き、差分を残す

    相手ごとに提案を作り、前回との差分を残しておく。5社ぶん書くと、共通して刺さった言い回しと、まったく響かなかった説明が見えてきます。

  3. 社内の「できること」を先に固める

    料金、契約条件、導入までの流れ、サポート体制。営業が相手に約束できる範囲を、関係部署と先に合意しておく。初期の受注を落とす原因の多くは、提案の弱さではなく社内の準備不足です。

  4. 3社目以降:発見したニーズを提案の軸にする

    2社目で見つけたような「提供側が想定していなかった価値」を、提案の最初に置く。ここから初めて、提案が「型」になり始めます。

  5. 5社を越えたら、刺さる相手の共通点を書き出す

    業界、規模、部署、担当者の役職。受注した相手と、話は聞いてくれたが決まらなかった相手を並べて、共通点を言葉にする。これが次のターゲット選定(ICP)の土台になります。

やってはいけなかったこと

振り返って、初期にやりがちで、避けたほうがよいと思うことを挙げておきます。

  • 汎用の営業資料を先に完成させようとする。 訴求点が定まっていない段階で作った資料は、誰にも刺さりません。資料は5社ぶんの提案の「後」に作るほうが早い。
  • 受注率を最初から追う。 初期の商談は、受注よりも学習の場です。ここで数字を追うと、聞くべきことを聞かずに押し込む営業になります。
  • 社内調整を提案の後に回す。 受注してから「その条件はできません」となるのが最悪です。相手の信頼を初期に失うと、紹介の連鎖も止まります。

よくある質問

紹介のツテがない場合、最初の1社はどう見つければよいですか?

既存事業の取引先、社内の他部署、前職のつながり、業界の勉強会。まったくゼロということは意外と少ないです。それでも無ければ、ターゲットになりそうな企業の担当者に「新サービスの意見を聞かせてほしい」と、売り込みではなくヒアリングとして依頼するのが現実的です。売り込みより、話を聞いてくれる確率がずっと高くなります。

初期顧客には値引きすべきですか?

値引きよりも、「一緒に作る」立ち位置をお願いするほうが後に残ります。導入後に使い方を教えてもらう、事例として名前を出させてもらう、といった条件のほうが、次の10社への資産になります。値引きだけで取った顧客は、正価に戻したときに離れやすいのが実感です。

最初の10社は、どのくらいの期間で取るべきですか?

商材と単価によるので一般化はできませんが、期間よりも「10社の受注理由を説明できるか」を基準にしたほうがよいと思います。10社取れても理由が説明できなければ、11社目以降は再現できません。

まとめ

  • 新サービスに一般的な訴求点はまだ無い。だから相手ごとに聞いて、相手ごとに提案を作る
  • 1〜2社目はニーズを発見するための営業と割り切る
  • 社内調整を提案の前に済ませておく
  • 5社を越えたら、刺さる相手の共通点を言葉にして、次のターゲット選定につなげる

最初の10社は、営業の腕前よりも「どれだけ丁寧に聞いて、どれだけ社内を先に動かしたか」で決まる、というのが私の実感です。

REN SUZUKI

ACCOUNT EXECUTIVE, UBER FOR BUSINESS — UBER JAPAN — TOKYO。事業開発・マーケティング・営業の執行を、業務委託で担っています。プロフィール →