新規事業でも、リード獲得施策でも、営業プロセスの改善でも、自分の部署だけで完結する仕事はほとんどありません。マーケティング、オペレーション、経理、法務、プロダクト。どこかの部署が動かなければ、施策は止まります。そして、他部署は基本的に動きません。悪意ではなく、自分たちの目標があり、優先順位があり、あなたの施策はその中で低い位置にあるからです。
私は約50名規模の営業組織で、リード創出の責任者として複数のリファラルプログラムを他部署と横断で企画・実行し、部署間の交流を促す取り組みにも関わりました。この記事では、動かない部署を動かすために実際にやっていたこと、そして失敗から学んだことを書きます。
動かない部署を動かす、三つのコツ
他部署を動かすときに私が使っていたコツは、突き詰めると三つです。
- 根回し — 正式な会議の前に、関係者と個別に話をつけておく
- 予め仲良くなっておく — 施策を持ち込む前から、関係を作っておく
- データをもとに施策の重要性を説く — 感覚ではなく数字で、なぜ今これが必要かを示す
1. 根回し
会議の場で初めて施策を説明し、その場で合意を取ろうとすると、ほぼ確実に「持ち帰ります」になります。相手は初見の話にその場で責任を持てないからです。
私は会議の前に、関係する部署の担当者・責任者と個別に話をしていました。施策の背景、相手の部署に何をお願いしたいか、相手にとって何が変わるか。ここで懸念を先に聞き出し、可能なら会議までに解消しておく。会議は「合意を取る場」ではなく「合意済みのことを確認する場」にする。これが根回しの実態です。
2. 予め仲良くなっておく
根回しができるかどうかは、それ以前の関係で決まります。施策を持ち込むときに初めて話す相手と、日頃から会話がある相手では、同じ内容でも受け取られ方が違います。
私が所属していた組織では、部署間の交流を促進する委員会活動に参加していました。直接の業務ではありませんが、ここでできた関係が、後に横断施策を動かすときの土台になりました。これは打算で人と仲良くなるという話ではなく、施策が無い時期に関係を作っておかないと、施策が出てきたときに動かせないという実務の話です。
3. データをもとに施策の重要性を説く
「この施策は重要です」という主張は、相手の部署には届きません。相手にも重要な施策があるからです。届くのは、数字で示された「なぜ今、これなのか」という根拠です。
現状の数字、施策で変わる見込みの数字、やらなかった場合に起きること。これを相手の部署が使っている指標の言葉で示す。私は営業データの可視化と分析に時間を使ってきましたが、その理由の一つは、他部署を動かすための言葉を数字で持っておくためでもありました。
失敗から学んだこと:相手部署の利害を追求しきれていなかった
コツを三つ書きましたが、これで全部うまくいったわけではありません。振り返って最も大きな失敗だと思っているのは、社内であっても利害関係はある、という前提を徹底しきれなかったことです。
施策を進める中で、ある部署の動きが鈍いことがありました。根回しもした、関係もあった、データも示した。それでも動かない。後から分かったのは、その施策が相手の部署にとって、自分たちの目標達成を妨げる方向に働く可能性があった、ということでした。私は「全社にとって良い施策だから協力してもらえる」と考えていましたが、相手の部署にとってのメリットとデメリットがどこにあるのかを、追求しきれていなかったのです。
社内の部署は、同じ会社の仲間であると同時に、それぞれ別の目標と評価を持つ独立した利害の主体です。この当たり前のことを、施策を進めたい気持ちが強いときほど忘れがちになります。
この経験の後は、施策を設計する段階で、関係する部署ごとに「この部署の目標にどう影響するか」を一行ずつ書くようにしました。デメリットがある部署には、それを打ち消す設計(評価への反映、業務負荷の軽減、成果の共有)を先に用意する。相手の部署にとってメリットとデメリットがどこにあるのかを、自分の部署と同じ精度で考える。これが、三つのコツの前提になる四つ目のコツだと、いまは思っています。
横断プロジェクトを進める手順
- 関係する部署を全部洗い出す
直接お願いする部署だけでなく、施策の影響を受ける部署も含める。経理・法務・オペレーションは抜けやすい。
- 部署ごとに、目標への影響(メリット・デメリット)を一行で書く
デメリットがある部署には、打ち消す設計を先に用意する。ここを飛ばすと、後で止まります。
- 関係者と個別に話し、懸念を先に聞く(根回し)
会議の前に、一対一で。懸念は会議までに解消するか、解消できないなら会議で扱うと予告する。
- 数字で「なぜ今か」を示す資料を、相手の指標の言葉で作る
自部署の KPI ではなく、相手の部署が追っている数字にどう効くかで説明する。
- 会議は確認の場にし、決定事項と担当・期限を残す
合意済みの内容を確認し、誰が何をいつまでにやるかを書き残す。書き残さない合意は、翌週には無くなります。
- 進捗と成果を、関係部署に向けて共有し続ける
成果が出たら、相手の部署の貢献として社内に共有する。次の横断施策を動かすための信頼になります。
よくある失敗
- 正式な会議で初めて説明する。 「持ち帰ります」で一か月失います。
- 「全社のため」で押す。 相手の部署にとっての利害を無視した正論は、動く理由になりません。
- 成果を自部署の手柄にする。 次に協力を求めたときに、誰も動きません。
- 施策があるときだけ連絡する。 関係は、施策が無い時期に作るものです。
よくある質問
根回しは、意思決定の透明性を損なうのではないですか?
根回しは決定を隠すことではなく、決定の前に懸念を集めることです。会議で決まる内容は同じでも、事前に懸念を解消しておけば、決定の質は上がります。透明性は、決定事項と理由を全員に残すことで担保できます。
立場が上の部署や、経営層を動かすときも同じですか?
基本は同じですが、データの比重が上がります。経営層に近づくほど、関係性よりも「事業にとってのインパクトとリスク」が判断の中心になるので、成功時に何が起きるか、リスクは何か、を数字で先に示すことが効きます。
まとめ
- 他部署を動かすコツは根回し・予めの関係づくり・データで重要性を説くの三つ
- その前提として、相手部署のメリット・デメリットを自部署と同じ精度で考える。ここを追求しきれなかったのが私の失敗
- 会議は合意を取る場ではなく、合意済みを確認する場にする
- 成果は相手部署の貢献として共有し、次の施策の信頼にする
社内であっても利害関係はある。この前提を持って設計した施策だけが、部署の壁を越えて動く、というのが私の実感です。