営業マネージャーの仕事は、組織の規模で変わります。5 人のチームなら、全員の商談を把握し、一人ひとりと毎日話し、案件に同行することができます。50 人になると、それは物理的にできません。できないのに同じやり方を続けようとすると、マネージャーは会話に一日を使い、組織の状態は誰にも見えなくなります。
私は約50名規模の営業組織の Sales Manager として、配下の SV(スーパーバイザー)と連携しながら、Inside Sales と Field Sales の両チーム、営業代行のベンダーをマネジメントしていました(社名はここでは控えます)。この記事では、その中で「やめたこと」と「増やしたこと」、そして SV との役割分担について書きます。
やめたこと:一人ひとりとの細かなコミュニケーション
最初に書くのは、やめたことです。私は、一人ひとりとの細かなコミュニケーションをやめました。
これは冷たく聞こえるかもしれません。ただ、50 人と個別に細かく会話しようとすると、会話すること自体が仕事になってしまうのです。朝から晩まで誰かと話していて、一日の終わりに「今日は何を判断したか」を思い返すと、何も判断していない。個別の会話は相手にとって意味があっても、組織全体の状態を良くする判断には、ほとんどつながっていませんでした。
マネージャーの仕事は、話すことではなく判断することです。誰をどこに配置するか、どの施策に資源を寄せるか、どの数字が崩れかけているか。50 人の組織で判断の質を保つには、会話の量を減らして、判断の材料を見る時間を作る必要がありました。
- 全員との定期的な 1on1 を、マネージャー自身が持つことをやめた
- 個別の案件相談に、マネージャーが直接乗ることをやめた
- 「最近どう?」という状況確認の会話を、マネージャーからはしないことにした
やめた代わりに何をしたか。それが次の「増やしたこと」と、SV への役割分担です。
増やしたこと:一人ひとりの数値を、あらゆる側面で可視化して分析する
会話を減らした代わりに増やしたのは、チーム一人ひとりの数値を、あらゆる側面で可視化して分析することでした。
会話で状況を把握しようとすると、50 人分の主観的な報告を聞くことになります。数値で把握すれば、50 人分の事実を一枚で見ることができます。私が見ていたのは、受注数や達成率だけではありません。
- 活動量:接点数、アポ数、商談数。誰の活動が落ちているか
- 転換率:アポ → 商談、商談 → 受注。誰がどの段階で詰まっているか
- 案件の質:単価、受注までの期間、失注理由の分布
- 時系列:先月比、先々月比。上向いているか、落ちているか
- フェーズ別の案件の滞留:どのフェーズに案件が溜まっているか、動いていない案件は誰のものか
これらを個人別・チーム別・期間別に見ると、会話では見えなかったことが見えます。「あの人は元気そうだが、実は商談化率が三か月連続で落ちている」「このチームは受注は出ているが、案件の滞留が増えていて来月崩れる」。数字は、本人が自覚していない変化を先に教えてくれる。ここに気づいてから、必要な人にだけ、必要なタイミングで話をする。会話の量は減りましたが、会話の精度は上がりました。
数字を見るには、数字が事実ベースで入力されていることが前提です。希望や想像が混ざった数字を分析しても、判断を誤ります。だから私はフォーキャストの入力ルールを「観測される事実のみ」に徹底していました(詳しくは営業フォーキャストの精度を上げる方法に書きました)。
SV との役割分担:情報とビジョンの橋渡し
マネージャーが一人ひとりとの細かな会話をやめるなら、その会話を誰かが担う必要があります。私の組織では、それが SV でした。
SV に依頼していたのは、私が直接コミュニケーションできないときの、情報とビジョンの橋渡しです。
- 情報の橋渡し(下から上):メンバーの状況、案件の細部、数字に出ない兆候(モチベーション、顧客との関係の変化)を、SV が拾って私に上げる
- ビジョンの橋渡し(上から下):組織が何を目指しているか、なぜこの施策をやるのか、なぜ線を引き直したのかを、SV がメンバーの言葉に翻訳して伝える
二つ目が特に重要でした。マネージャーが数字を見て判断したことは、理由が伝わらなければ「上が勝手に決めた」になります。SV が「なぜ」を現場の言葉で伝えてくれることで、判断が組織に浸透する。私が数字を見る時間を持てたのは、SV がこの橋渡しを担ってくれていたからです。
マネージャーの時間の使い方
やめたこと、増やしたこと、SV への分担を踏まえて、私のマネージャーとしての時間の使い方は次のようになりました。
- 数字を見る(毎日)
個人別・チーム別の数値を確認し、変化の兆候を拾う。ここが一日の起点。
- SV と話す(毎日・短く)
数字で気になった点と、SV が拾った現場の兆候を突き合わせる。判断が必要なことを決める。
- 必要な人と、必要なときだけ話す
数字と SV の情報から、いま話すべき人を絞る。全員と話さない。
- 施策と配置を判断する
分業の線の引き直し、採用、トレーニング、リード獲得施策。組織の構造を動かす判断に時間を使う。
- 他部署との調整に出る
マネージャーでなければ動かせない、部署の壁を越える調整に出る。
規模で変わる、マネージャーの役割
5 人のチームのマネージャーと、50 人の組織のマネージャーは、別の仕事です。前者は最も優れたプレイヤーがなる仕事、後者は数字と構造で組織を動かす仕事です。
多くの営業マネージャーは、優秀なプレイヤーとして昇進し、5 人の頃のやり方を 50 人でも続けようとします。全員と話し、全案件を見て、同行する。それができないと、自分の力不足だと感じる。ただ、それは力不足ではなく、仕事の定義が変わったことに気づいていないだけです。話す仕事から、見て判断する仕事へ。 この切り替えが、規模が大きくなったマネージャーの本当の仕事だと、私は考えています。
よくある質問
一人ひとりとの会話をやめると、メンバーとの信頼関係は保てますか?
信頼は会話の量ではなく、判断の質と理由の伝達で保たれます。数字を見て、必要なときに的確な話ができ、判断の理由が SV を通じて伝わっていれば、「見てくれている」という感覚は残ります。逆に、毎日話していても判断が曖昧なマネージャーは信頼されません。
SV がいない、または育っていない場合はどうしますか?
SV を育てることが、マネージャーの最初の仕事になります。SV に「情報とビジョンの橋渡し」という役割を明示し、判断の理由を必ず SV に先に伝える。SV が「なぜ」を語れるようになるまでは、マネージャー自身が会話を持つ必要がありますが、その期間を最短にすることを目標にします。
まとめ
- やめたこと:一人ひとりとの細かなコミュニケーション。会話が仕事になってしまうから
- 増やしたこと:一人ひとりの数値を、あらゆる側面で可視化して分析する。数字は本人より先に変化を教えてくれる
- SV の役割:マネージャーが直接話せないときの、情報とビジョンの橋渡し
- 50 人の組織のマネージャーは、話す仕事ではなく、見て判断する仕事
規模が変わったら、仕事の定義も変える。それができたときに初めて、組織は一人のマネージャーの限界を超えて動く、というのが私の実感です。